「新しい『国立大学法人』像について」に対する見解
平成14年4月16日
全国農学系学部長会議
前会長校 林 良博
国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議は、「新しい『国立大学法人』像について」(以下、最終報告という)を取り纏め、本年3月26日、文部科学大臣に提出した。国立大学協会は4月19日には臨時総会を開催し、最終報告に対する立場を論議するという。
全国農学系学部長会議(以下、本会議という)は、平成12年6月に開催された第102回会議に声明を発して以来、農学教育研究に責任をもつ立場から国立大学の法人化について発言してきた。こうした経緯を鑑みるならば、今回の最終報告に対して本会議からも何らかの意見表明を行う責任があると考えるが、臨時会議を設定する時間的余裕がないため、前会長の見解表明をもってそれに代えたい。
国立大学の制度設計を変える必要があるとすれば、それは大学の自主性・自律性を高めることにあるとわたしたちは主張してきた。最終報告は、独立行政法人制度を前提とした「行政改革」の論理から出発したものであったが、V人事制度 2.制度設計の方針(2)選考・任免等において、「憲法上保障されている学問の自由に由来する『大学の自治』の基本は、学長や教員の人事を大学自身が自主的・自律的に行うことである。」と明記されたことは評価される。
しかし最終報告は、教職員の身分を「非公務員型」にするとしたが、この結果、教育公務員特例法の不適用によって「学問の自由に由来する大学の自治」を形骸化を招くことにならないか、わたしたちは危惧する。また、「非公務員型」の根拠にあげられている人事の柔軟化等の利点は理解できるとしても、その欠点についてどこまで検討し配慮されたのか。こんにちの社会において、職業人の倫理ほど大切なものはない。すなわち「非公務員型」によって得られる以上のものを「非公務員型」によって失うことにならないか、わたしたちは危惧する。
最終報告には、運営組織について「教学と経営との円滑かつ一体的な合意形成への配慮」が法人の基本として示されているが、実際の運営において教学と経営の分離につながる恐れのある組織構成が同報告に提案されている。わたしたちは、効率性のみの追求によって世界各地の持続型農業が破壊されてきたことも、また農民が主体的に参画する「カンペシーノ・ア・カンペシーノ」によって持続的農業が復活したことも知っている。効率のみの観点から推進される教学と経営の分離が、自主的・自律的な営みとしての教育研究活動の低下につながることを、わたしたちは危惧する。
最終報告に示された中期目標・中期計画の策定、およびそれらに対する評価と資源配分の基本的スキームが実際にどのように運用されるのか、とくに大学の自主性と自律性にどのような影響をもたらすのか、そこにわたしたちは最大の危惧を抱いている。
平成12年6月に声明を発して以来、全国農学系学部長会議は一丸となって、国民の期待に応える農学系大学・学部づくりを検討しつつ、大学を変質させる企みを許さないという態度を堅持してきた。最終報告は、わたしたちにとって不満足なものと言わざるを得ないが、これで終わったわけではなく、むしろこれからが本番である。
4月15日に発足した新たな体制の下で、本会議はさらに大きく発展し、農学教育研究における本会議の責任を果たすであろう。
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